アツシマンダイβ

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労働生産性の低下は、働き方や残業の問題ではなく、労働市場のミスマッチ等の問題。

      2018/04/14

これ、僕自身も勘違いしていたのですが、最近騒がれている労働生産性の問題は、基本的には働き方や残業の問題ではなさそうであるということが、調べているうちに分かってきましたので、整理しておきます。

労働生産性とは

労働生産性とは、以下の式で表されます。

労働生産性 = 付加価値/労働者の数

労働生産性 = GDP ÷ 就業者数(国レベルで見た場合)

日本の労働生産性が低い

日本の労働生産性が低いことについては、たびたび各所で話題になっています。

日本生産性本部の茂木友三郎会長は18日、2014年度の物価変動の影響を除いた実質の労働生産性が、前年度比1・6%減となったと発表した。また、日本の労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟国中の先進主要7カ国の中で最も低い。

実は、日本の労働生産性が先進国と比べて低いことは長らく言われてきたことであり驚くことではないのだが、日本の労働生産性が上がらなければ経済も一向に上向くはずがなく、そういう意味でこれは日本人にとって確かに非常に心配なニュースだと言える。

茂木会長はこの数字を見て、「日本は勤勉な国で、生産性が高いはずと考えられるが、残念な結果だ」とコメントした。

勤勉さだけでは改善できない日本の低い労働生産性」より

労働生産性が低い理由

労働生産性の定義と、日本の労働生産性が低下していることは分かりました。

続いて、労働生産性と働き方の関連性を見ていきます。

労働生産性が低いのは、労働者がダラダラと働いているから?

労働生産性という言葉からは、労働者がダラダラと非生産的な働き方をしているイメージが連想されますし、実際にそのような論調は多数見られます。

ところが、労働生産性の低下は、どうやら労働者の働き方の問題ではないようです。

以下、日本人の労働生産性の低さは従業員の働き方とは関係ないことを証明しよう(小倉さんは考えた)から引用していきます。

さて、まずは毎日のように叩かれている日本の長時間労働ですが、日本の労働時間は1990年から見ると減っていることが示されています。

日本人の労働時間は1990年の2100時間から2015年の1700時間まで下がっている。一方アメリカは1800時間のままだ。

(中略)

セオリー通りなら日本とアメリカの労働生産性ランキングの差は縮まっていなければならない。しかし結果はどうなったか?

アメリカは3位のまま。日本は14位から21位に落ちている。

この事実から労働時間は重要なファクターでないことが分かる。つまり、日本は労働時間を20パーセント削減して労働効率を高めたが、それ以外の「何か」の差によって、日本のランキングが落ちてしまったのだ。その「何か」こそが労働生産性の重要なファクターだと言える。

(「日本人の労働生産性の低さは従業員の働き方とは関係ないことを証明しよう」より)

以上のように、労働生産性と労働時間は直接の相関があるわけではなさそうです。

企業や国家の利益が重要

労働生産性という概念は、労働者の数、つまり分母が一定だと考えると、どちらかというと分子次第、つまり単純に企業の利益や国家のGDPの話に帰結します。

仮に世界一位の労働生産性を持つルクセンブルク人100万人を日本に連れてきて、各会社に配置したとしよう。果たしてそのルクセンブルク人達は母国と同じ生産性を保てるだろうか?直感的に分かるだろうが答えはNOだ。

これを会社で例えるとその理由が見えてくる。仮にAppleの社員とシャープの社員を全員入れ替えたとしよう。その結果シャープの労働生産性はApple並になるのか?もちろんならない。なぜならシャープはiPhoneやMacのような高利益商品を持ってないし、持ってたとしても売れないからだ。つまり従業員の能力と労働生産性は関係が(あまり)ないのだ。

(「日本人の労働生産性の低さは従業員の働き方とは関係ないことを証明しよう」より)

つまり、労働生産性が低い理由は、

  1. 企業レベルでいうと、マージンのたっぷり乗った高利益商品が不足していること
  2. 国家レベルでいうと、1の結果として、高収益体質の企業が少ないこと

あたりに考えられそうだということです。

労働生産性に影響を与える3つの要因

続いて、問題を立体的に把握するために、別の視点からも労働生産性について考えてみたいと思います。

日銀から発表されているレポート「先進国における労働生産性の伸び率鈍化」では、労働生産性に影響を与える3つの要因について触れられています。

近年、先進国において労働生産性の伸び率が趨勢的に鈍化している。成長会計のフレームワークでは、労働生産性の伸び率は資本装備率の伸び率の寄与とTFPの伸び率の和であり、先進国ではそのどちらも伸び率が鈍化している。学界や中央銀行での議論では、その主な背景として、①金融仲介機能の低下に伴う資本の非効率的な配分(Misallocation)により資本蓄積が停滞した、②労働市場のミスマッチ(Mismatch)拡大により全要素生産性(TFP)の伸び率が鈍化した、③計測の問題(Measurement problem)から技術革新の成果が GDP統計に十分に反映されていない、という3つの論点(「3つのM」)が指摘されている。先行きについては、金融仲介機能の回復や労働市場のミスマッチ解消に連れて労働生産性の伸び率が、程度の差はあるものの、徐々に高まっていくとの見方が多い。

(日本銀行「先進国における労働生産性の伸び率鈍化」より)

それぞれ順番に内容を見ていきましょう。

(1) 資本効率の良い企業への資金の供給不足

資本を効率よく使って利益をあげることができる企業に資金が十分に提供されなければ、企業の利益や国のGDPには悪影響が及ぼされ、結果として労働生産性も下がるでしょう。

上述の日銀のレポートによると、健全な企業に資金が十分に提供されない理由として、3つの仮説があげられていますが、内容を簡単に整理すると、以下のようになります。

  1. 金融危機以前には、金融規制が十分ではなかったため、横着な信用創造と融資がまかり通っていたことが、お金の流れがいびつになった原因ではないかという仮説です。資本効率の悪い企業やセクター、投資案件でも、金利や資金調達コストが低ければ、借入を増やしてレバレッジを掛けることで、ある程度の収益性になります。しかし、そうした企業への融資が増えると、健全な投資案件にはお金が流れにくくなります。
  2. 金融危機後には、今度はアメリカを中心に、主要な中央銀行が大規模な金融緩和が行いました。その結果として、1と同じように、金利や資金調達コストが低下したため、資本効率の悪い企業やセクターにお金が流れたという仮説です。2007年以降は、アメリカを見ても、成長を求めるお金がシリコンバレーに流れ込み、テック系企業が躍進したことを考えると、この2つ目の仮説は、データを見ていないのでわかりませんが、少し違和感がある気がします。
  3. 金融危機後の信用収縮によって、企業や家計のバランスシートが悪化し、与信の低下が縮小したというものです。これについては以下のような実証分析の例も紹介されています。

金融仲介機能の低下が非効率な資本の配分を通じて先進国の労働生産性を下押ししていることに関しては、実証分析が蓄積されている。 例えば、Levine and Warusawitharana (2014)は、企業の資金調達と経済全体の労働生産性との間には有意な正の相関があり、先般の金融危機のように資金調達面の制約が厳しい時ほど、経済全体の労働生産性や成長が下押しされる可能性があるとしている。

(日本銀行「先進国における労働生産性の伸び率鈍化」より)

以下の図を見ると、銀行貸出の低下に伴い、設備投資の額も減少していることが分かります。

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(日本銀行「先進国における労働生産性の伸び率鈍化」より)

(2) 労働市場のミスマッチ

労働市場のミスマッチも労働生産性に影響します。

同じ労働力を投入したときに、多くの利益を生み出す企業と、多くの利益を生み出さない企業があるからです。

Dew-Becker and Gordon (2008)によると、景気回復局面において失業率が順調に低下しても、労働市場においてミスマッチが拡大していれば、効率的な労働力の配分が行われず、マクロでみた労働生産性は下押しされる。この点につい て、McGowan and Andrews (2015)は19か国のデータを用いた実証研究を行い、 労働市場のミスマッチの拡大が労働生産性を有意に押し下げることを明らかにした。

(日本銀行「先進国における労働生産性の伸び率鈍化」より)

こうした現象は「コンポジション効果」と呼ばれています。

労働市場のミスマッチの結果、生産性の低い業種に多くの労働者が流れ込み、 平均賃金や労働生産性が下押しされるメカニズムは「コンポジション効果」と呼ばれる(Barnichon and Figura, 2011、Şahin et al., 2014、Borio et al., 2015 等)。 英国では、金融危機後、娯楽、宿泊・飲食、不動産など労働生産性の伸び率が相対的に低い業種において就業者が他の業種よりも早いペースで増加した(図 7、 BOE, 2014、Carney, 2015、Cunliffe, 2015)。このように就業者の増加が生産性の低い職種や業種に偏った結果、マクロでみた労働生産性の伸び率が鈍化した可能性が指摘されている(BOE, 2015a、Patterson et al., 2016)。(中略)

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(日本銀行「先進国における労働生産性の伸び率鈍化」より)

(3) 計測の問題

こちらは今回調べる趣旨とは異なるため割愛しますが、計測の問題で実質GDPが過小評価された結果、労働生産性が低下しているのではないかという議論です。GDPという指標自体の限界も各所で指摘されているところです。

労働生産性を改善する方法

ここまで見てきた内容をもとに、労働生産性の改善に繋がりそうな要素を考えてみたいと思います。

ゾンビ企業の淘汰

低収益で潰れかけているような企業を延命するためだけに資金や貴重な労働力を投入することは、労働生産性の低下に繋がります。

あまりに変化のスピードが早いがためにセクターが丸ごと潰れてしまうようだと、経済への悪影響も大きくなりますが、個別の一社の話であれば、長く続いている企業だからと不必要に延命措置を行うことは、労働生産年齢人口が減っていく中では、避ける傾向になってくるでしょう。

今後しばらくは金融緩和が続きそうですが、その後、金利が上がり始めると、低収益体質かつ自己資本の少ない企業の経営は厳しくなっていくと思います。

成長企業の創造

ゾンビ企業の淘汰などによってフリーになった資金や労働力は、新しい高収益企業を創造するための貴重な資源となります。

日本でもスタートアップが盛んになっていますし、安倍内閣による副業の推奨も、大企業にいる優秀な人材が低リスクで新しい挑戦を始めることを後押しするでしょう。高利益の商品・サービスや高収益企業を生み出すエコシステムが整ってくると、労働生産性は改善されてくると思います。

シリコンバレーのバブルが終わるという話も定期的に出ていますが、適切なバリュエーションで評価すれば、金融マーケットは長持ちします。短期的な加熱で高いバリュエーションをつけると、持続性は落ちます。

プライシングの改善

高い利益率のためには、プライシングも重要です。

「おもてなし」のしすぎが問題だという話もありますが、サービスの質を落とす前に、以下の2点が重要ではないかと思います。

ダイナミックプライシングの導入

たとえば牛丼チェーンやコンビニなんかでも、深夜は値段を上げていいと思います。

昼間は牛丼一杯が380円、缶ビール1本が300円、ポテトチップス1袋が150円。22時以降になると、牛丼一杯が600円、缶ビール1本が500円、ポテトチップス1袋が250円。24時以降になると、牛丼一杯が750円、缶ビール1本が600円、ポテトチップス1袋が300円。そんなイメージです。

競合他社もあるため難しいとは思いますが、国が最低賃金を上げていく中で、深夜の閉店も増えています。思考実験ではありますが、ダイナミックプライシングを活用することで、深夜帯の収益性を上げていくことも選択肢の一つではないでしょうか。

ブランディング

高利益商品を生み出すためには、マージンを乗せる必要があります。そのためにはブランディングが重要です。

元P&G、元USJのマーケッターである森岡さんもブランド・エクイティの重要性を著書で述べられていますし、バフェットも企業のブランド力を利益の源泉として認識しています。

paiza開発日誌さんの、日本とアメリカ、他国の職業別の給料を比較した記事によると、アメリカは日本と比べて広報の給料が高く、ブランディングを重視していることがわかります。

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(paiza開発日誌「ITエンジニアの地位とは?国別、職種別の年収比較から見えるもの」より)

設備投資の強化とリストラ

現代は、作れば作るだけ売れるという時代ではありませんが、設備投資の強化によって、生産量を落とさずに労働者を減らすことができるのであれば、理論上は労働生産性をあげることができます。

つまり、とにかく物を作れば売れる時代を過ぎた現代では、生産性向上のための設備投資はリストラとセットで考えなければ、企業にとって設備投資をするインセンティブが低いとうことです。

日本のIT活用が遅れる理由の一つとして、労働者の解雇が難しいからという部分は考えられると思います。

生涯学習支援と転職市場の流動性強化

欧米並みに解雇を簡単にする場合は、その労働者が次の仕事を見つけることをサポートする必要があります。

たとえば、アメリカやヨーロッパを見ると、労働生産性は日本よりも高いかもしれませんが、失業率も高く、社会は不安定です。テロ事件も頻繁に発生しています。失業率が上がれば労働生産性は上がりますが、これは必ずしも良い上がり方とは言えないでしょう。

つまり、企業が設備投資によって労働生産性を上げるためには上述のように解雇を簡単にする必要がありますが、それと同時に、労働者が生涯に渡って新しいスキルを身につけて、新しい仕事に挑戦できるような社会作りが必要不可欠だということです。

また、転職市場の流動性が強化されると、高付加価値を生み出しやすい職業や企業に労働力が流れやすくなり、国全体の労働生産性が上がることが予想されます。

結論

いずれにせよ、日本の人口は減っていきますので、必要とされる仕事をすることが社会全体の経済的な発展につながります。

GDPや労働生産性を上げるためには、普段の働き方を効率化するだけではなく、根本的にどういう業種で働くのかということを考えなければいけないということかなと思います。

 - オピニオン, 日本の経済, 経済, 金融・経済